中・高生時代について

何が将来に繋がるかなんて誰にも分からない

国語 / 中村 陽一

Q1 先生は中学生・高校生時代どんな生徒でしたか。

もともと人を楽しませたり、笑わせたりすることが好きでしたし、目立ちたがり屋でもありまして、中学の時は友人とわいわい騒いでばかりいました。勉強もできる方でしたし、委員長や部長を務めたりもしていて、自分で言うのも何ですが、典型的な優等生でした。ただ、「優等生ってかっこ悪くない?」「もう子どもじゃないんだから、はしゃいだりするのダサくない?」というニヒル期が徐々に訪れまして、高校生になると目立つことを避けるようになりました。今思えば、その頃に太宰や芥川にはまったことが強く影響しているのだと思います。『人間失格』を読んで、「葉蔵の気持ちが分かるのは俺だけだ」なんて思って……。あまりにも凡庸な話で、今振り返ると恥ずかしいですね。

部活は一生懸命やりました。中学の時はバスケ部でした。ちょうどバルセロナオリンピックに出場したアメリカ代表チームが「ドリームチーム」と呼ばれ話題になった頃で、私はマジック・ジョンソンに心酔して、繰り返しビデオを観てプレーを真似したり、同じバッシュを履いたりしていました。バスケのことばかり考えていて、部長になってからは、ますますバスケ漬けの毎日でした。

高校では色々な理由でバスケを辞めて、ラグビー部に入りました。練習はきつかったし、大きな怪我もありましたが、高校3年生の時には神奈川県でベスト16に入ることができました。

中高6年間は部活メインの生活でしたが、一方で、幼い時から本を読んだり、音楽を聞いたり、テレビを観たり、映画を観たり、ゲームをしたり、もともと色々なことが好きでした。でも、部活中心の生活になると、なかなか時間をとれない。だから、いつでも、どこでも、すぐ開ける本は貴重でした。学校の行き帰りの電車の中とか、休み時間とか、お風呂の中とか、トイレの中とか、時間を見つけては本を読んでいました。

部活の遠征試合に行く時にも、常に文庫本をポケットに忍ばせていました。自意識過剰な時期でしたから、ラグビー部の大きなバックを背負って、日焼けした顔に泥や埃がついたりしている男子高校生が、電車の中で難しそうな顔をして太宰や芥川を読んでいるなんて、そんなギャップかっこよくない? と自分に酔っていた面が多分にあったのだと思います。でも、ちょっとかっこよくないですか?(笑)

Q2 先生の中学校・高校時代の今に繋がる思い出を教えてください。

部活で6年間チームスポーツに取り組んで、それなりに達成感を味わってきたので、今でも「それぞれ意見の違う者同士が、時にはぶつかり合いながらも、価値観をすり合わせ、ある目標を達成する」という行為が好きなんだと思います。それと、ずっと部活で身体を動かすことをしてきたので、「実際に体験してみることが大切」という価値観を持っているのだと思います。

教員になってから、ワークショップ型の授業や協働学習に興味がわいて、それまで経験したこともなかった演劇のワークショップに参加したりしながら、授業をはじめとした学校の教育活動にいかせないかと考えるようになったのも、そんな中高時代の部活動の経験が大きかったのかもしれませんね。

それと、急に話が変わりますが、私は小学校の時に、ダウンタウンさんやウッチャンナンチャンさんのコントを『夢で逢えたら』というテレビ番組で観て以来、お笑い番組にはまってしまって、中高校生の頃には、ダウンタウンさんのコントなどをビデオに録画して、繰り返し観るようになっていたんですね。何度観ても大笑いできるのが不思議で、大笑いしながらも、「ここの発想が秀逸なのだな」とか「この部分があるからオチがより効果的なのだな」とか、的外れなことも多かったと思いますが、自分なりに色々と考えるようになっていったんです。大げさに言えば、そうやって「作品の構造を分析する」ことが楽しかった。そのうちに、映画だとか漫画なんかも同じように「分析」するようになりました。不十分で稚拙な「分析」でしたが、そんな風に作品に触れることがとても面白かったのです。

大学で文学を学ぼうと思ったのは、自分が太宰や芥川を好きだからだと志望した当時は考えていましたが、夢中になれるクリエイター、アーティストがいて、その人の作品を「分析」的に鑑賞することを楽しんでいたという経験も、今考えれば文学を研究してみようと思うようになったきっかけなのかも知れません。そういう意味で、ビデオテープが擦り切れるくらい繰り返しお笑い番組を観ていたことは、今に繋がっているのだと思います。

やっぱり、中高時代に、自分が心から好きだと思えるものを、とことん追求することが大切なのだと思います。「牡蠣フライを美味しく揚げる方法を研究する」とか、「カンガルーのいる日本の動物園を全てめぐる」とか、何だっていいんだと思うのです。何が将来に繋がるかなんて誰にも分からないですから……。なんだかこじつけみたいなっていますが(笑)、本当にそう思っています。

中村 陽一

国語 / 中村 陽一