新理科館建設現場に露出した露頭面の保存(地層剥ぎ取り)
2020.08.06
新理科館建設現場では,地下 9 m まで掘り起こしたことで露出していた露頭面(地層が露出している面)を保存するために,地層の剥ぎ取り作業を行いました.作業は7月3日に行われ,戸田建設による全面バックアップの下,本校地学科の教員2名を含む4名で主に実施されました.ここでは,戸田建設の皆様への深い感謝も込めてその様子をご紹介いたします.
図1.新理科館建設の基礎となる武蔵野礫層最上部にあたる基底面(地下約 9 m)から本校2号館を望んだ様子.右側の壁面において2箇所で木材が外され,地層が露わになっているのが分かる.
新宿という都心では,地層が見える露頭そのものが少なく,まして建築物の真下にある地質体を観察できる機会はほとんどありません.今回作業を行なった現場も,現在ではコンクリートで埋められてしまっています.だからこそ,地層の剥ぎ取りによる露頭の保存によって,本校の地盤を構成している地質を観察する機会が半永久的に得られることになります.今回は,4箇所,延べ 6 m に及ぶ露頭面の転写採取に成功しました.
地層の剥ぎ取りは,土壌や遺跡の保存のための有効な手法として古くから行われ,浜崎&三土(1983)によれば,1890年ごろにロシアの土壌学者らによって始められたもののようです.今日でも,貴重な地質情報の保存のために地層の剥ぎ取りは恒常的に行われています(石浜ほか(2015),石浜(2017)など).今回は,露頭面にグラスウール(耐熱シートのようなもの)を接着し,乾燥・固着後に「剥ぎ取る」という作業を行いました.
図2.露頭面(図1の左側)にウレタン系接着剤を塗布し,その上からグラスウールシートを接着している様子.
図3.接着からおよそ4時間後,地層が転写されたシートを剥ぎ取っている様子.
図4.剥ぎ取った後の露頭.
図5.剥ぎ取ったシート.
図6.別の露頭面(図1の右側)の剥ぎ取り風景.
図7.地下 4 m の場所にも鉄骨用の斜面があったため,こちらで大型の剥ぎ取り試料採取を試みた.
図8.地下 4 m 地点の剥ぎ取り用露頭.木材を隔てて左には地下 9 m の基底面が見えている.
図9.全長 3 m のシートの剥ぎ取りは4〜6人がかりであった.ただし,この付近の層理はほぼ水平であるため,斜面から採取した剥ぎ取りシート 3 m に含まれている地層の層厚は約 2.6 m に相当する.
図10.剥ぎ取り後の露頭面.
図11.採取した剥ぎ取り試料.全長 3 m,幅 1 m.図の下方向が下位.中央やや下のハンマー付近には断続的な褐色の軽石の層も見られる.
図12.現場から校舎へとみんなで運搬!
図13.本校事務室前にて.剥ぎ取り作業の成果.
図14.作業後,本校理科教員4名(うち3名作業,うち1名撮影).
今回採取された地質試料の展示および解説は,新理科館内の常設展示として公開する予定でおります.来年,建設された際には,どうぞお立ち寄りください.本校の教員が解説してくれるかもしれませんし,外来の方とのアカデミックな議論も楽しみにしております.
最後になりますが,今回このような貴重な試料採取の機会提供,日程調整,作業環境整備など,文字通り全面的にご協力賜りました,戸田建設の皆様方に,この場をお借りして深く感謝の意を表します.
引用文献
浜崎忠雄,三土正則(1983)土壌モノリスの作成法.農業技術研究所資料B,18: 1–27.
石浜佐栄子,笠間友博,山下浩之,平田大二,新井田秀一(2015)地層剥ぎ取り技法を用いた箱根火山起源噴出物の実物標本化:神奈川県立晴明の星・地球博物館における露頭情報の収集・保存・活用.火山,60(3): 342–348.
石浜佐栄子(2017)露頭の原状保存のための地層剥ぎ取り・型取り・切り取り技法について.神奈川県博調査研報(自然),15: 13–20.