理科 地学 夏季地学巡検旅行(富士山周辺地域)
2015.08.12
8月3日から5日にかけて,理科・地学では,地学部を中心とした富士山周辺で地学巡検旅行(2泊3日)を行いました.今回のテーマは,富士山を一周するようなコースで,火山地形,湧水,地質を中心に,文化や信仰なども意識した総合的なフィールドワークでした.1日目は富士山の西側で富士川の溶岩流から始まり,富士宮浅間神社と湧玉池,白糸の滝,本栖湖,鳴沢氷穴を巡りました.2日目は,自然の恵みと災いをテーマに,宝永の噴火口からスタートし,三島溶岩に流下した経路に沿って景ヶ島渓谷,鮎壺の滝,三島駅北口,楽寿園,柿田川湧水と見学しました.最終日は,御胎内,富士樹空の森,上柴怒田の火山灰層,猿橋溶岩流を見学しました.天気にも恵まれ,富士山の外周を巡りながら,素晴らしい景色と富士山を取り巻く様々な要素に触れることができ,たくさんの教科・科目に分けて学ぶ内容も,その総体として存在することが,富士山を一例に感じられたものでした.
富士山の溶岩を追って,河原に露出する溶岩と河川礫の観察@富士川
夏にしては珍しく雲がきれいに取れた富士山と宝永の噴火口をバックに記念写真@水ヶ塚駐車場
1日目(8/3)
1日目は,最初の見学地は富士川でした.ここでは富士山から流れてきた溶岩流が河原に露出していて,河川に転がるレキとともに観察しました.同時に,まずは富士山を一望したかったのですが,残念ながら天気は良いものの,夏らしく富士山に雲がかかり,バスからも富士川からも富士山を見ることはできませんでした.その後,富士信仰に関連の深い富士宮浅間大社を参拝し,境内と湧玉池を見学しました.地学巡検といいながらも,信仰や親水空間も重要な観察ポイントです.昼食後,白糸の滝へバスで移動して,滝の成因と地質を観察しました.いずれも富士山の火山噴出物によるものです.その後,本栖湖,鳴沢氷穴と見学しました.本栖湖でもやはり雲に阻まれ,千円札の裏側にも描かれている風景を見ることはできませんでした.文化的な側面でしたが,場所はわかったと思うのでリベンジしてください.
富士川では河原の石ころ(レキ)を観察しました.面白いレキを発見!
こちらは,富士川で集めたレキ.名前はともかく違うものを集めてみます.それだけでもまずは勉強になります,さらに,先輩方と我々のやり取りに,中1も興味がわいたようでした.
いつもそう考えていますが,フィールドでは地学だけ学べばよい訳ではありません.富士宮浅間大社にも参拝し,富士山信仰にも興味を持ってもらいます.
境内には博物館級の火山弾がありました.非常に典型的な標本で見入ってしまいました.
富士宮浅間大社の湧玉池.富士山の溶岩が運んだ地下水が湧きだし,清涼な湧玉池を作ります.富士登山に行く人々が身を清めたそうです.ちょうど禊ぎをしている人もおり,水文班は水質も測定です.
生徒もそうですが,水に入って遊んだり涼んだりする人がたくさんです.信仰も含めて,ここでは,人と水との関わりを見ることができました.
白糸の滝です.真ん中あたりから下にかけて古富士山からの古富士泥流があり,上部にはその後の溶岩流が分布します.古富士泥流は泥が入っていて水がしみこみにくく,上部の溶岩流は水を通しやすいため,上部から水が流れ出し,このような滝になります.
水質も測りながら観察をしました.ちゃんと滝を作っている地層も観察できたでしょうか.
こちらは本栖湖です.ここからは千円札の裏に書かれた風景に近いものが見られます.残念ながら,今回は見ることができませんでした.また訪れる楽しみをしてください.
本栖湖では青木ヶ原樹海を作った青木ヶ原溶岩流の先端を観察しました.生徒が立っている下にあるのがそうです.この溶岩流は,昔,存在した「せのうみ」という大きな湖を埋め,今の精進湖と西湖になりました.本栖湖は途中で溶岩流が止まり,埋められずにすみませんした.
富士山の溶岩は,たくさんの溶岩洞窟をつくっていることでも世界的にも有名です.
ここ鳴沢氷穴では洞窟内の温度が低く,酷暑の夏でも奥に天然の氷が見られます.
2日目(8/4)
2日目は,小さなテーマとして「三島溶岩の災いと恵み」を設定し,日本列島の自然が持つ二面性の一例を強調するようなコースにしました.まずは,溶岩をもたらす富士山に登り,最近の最も大きな噴火でもあった江戸・宝永の噴火のときにできた噴火口を見学しました.三島溶岩の噴火口は山腹での噴火と考えられていますが特定されておらず,ひとまず富士山五合目から三島溶岩の流れに沿うようにバスを進めました.これは流動した距離を実感してもらうことがねらいです.途中,柱状節理が見事な景ヶ島渓谷,鮎壺の滝といずれも三島溶岩が見られる場所を見学し,先端部にあたる三島市まで移動しました.三島市では,三島駅北口,三島駅南口の楽寿園,柿田川公園を見学しました.楽寿園と柿田川公園では,三島溶岩がもたらす恵みでもある湧水が見られます.溶岩流としての災いと水資源としての恵みの両方を語りながら巡検を進めました.
富士宮口(新五合目)から富士山を歩きます.高度はそれほどありませんが,高山病もあるので慎重にゆっくりです.
周辺の火山噴出物を中心に,植物なども歩きながら休憩しながら観察しました.
富士山のスコリア.色合いは違いますが,赤っぽいものは酸化されたためで,黒っぽいものと同じスコリアです.手で持ってみると,ガスが抜けて多孔質なため軽いです.
目的地の宝永の噴火口に到着.雲が出たり消えたりでしたが,大きな噴火口に生徒も反応が良かったです.新幹線などからも確認できますが,近くで実際に見る迫力は写真では伝わりませんが素晴らしいかつ重要な経験です.ついでに,斜面を駆け上がる上昇気流も激しく,雲の形成に関しても感じることができました.
新五合目で記念写真.大したことはないとはいえ,無事に戻ってこられて良かったです.
景ヶ島渓谷.三島溶岩の柱状節理が見事で,生徒からもその形成過程に関して,鋭い質問が出ました.好奇心と現場での観察の重要性を感じます.
鮎壺の滝.これもやはり三島溶岩.迫力があり,生徒も印象深かったようです.
三島駅北口のロータリーに露出する三島溶岩.市内には他にも見られますが,後ろの建物が東海道新幹線のホームです.ここまで溶岩流が流れていることを感じてもらうために立ち寄りました.ということは,東名高速や鉄道にも大きな影響が考えられるということです.
楽寿園で三島溶岩がつくる縄状の模様を観察.同時に,タブレットでハワイの溶岩流の動画を見せることで,理解がより深まったと思います.
3日目(8/5)
最終日ですが,前日(4日)の夕暮れ時に宿舎の富士吉田市内から,大きな富士山のシルエットが見えました.ちょっと期待をしていましたが,この日快晴で昼過ぎまでは,雲に隠れっぱなしだった富士山が姿を見せてくれました.移動のバスからも雄大な姿が見え,歓声と写真撮影で盛りあがりました.臨機応変に予定を変更し,昨日も訪れた水ヶ塚駐車場を再訪し,雄大な富士山と宝永の噴火口,側火山を遠望しました.その後,御胎内くぐりで溶岩洞窟を体験してもらい,富士樹空の森では,富士山についての資料や映像の見学を行いました.これで富士山周辺での観察は終了します.しかし,最後の見学地は中央道に乗って大月市です.なぜと思われるかもしれませんが,実は最も遠くまで流れた富士山の溶岩流は,遠く大槻氏にまで達しているのです.最後に,橋で有名な猿橋を訪れ,そこに富士山からの溶岩流を確認し,改めて富士火山の凄さを感じ,それを最後としました.
水ヶ塚駐車場.昨日のリベンジが大成功.迫力ある素晴らしい姿に生徒も感動していました.野外での観察には,計画通りでない臨機応変さも重要です.
溶岩樹形です.御胎内清宏園では,胎内くぐりと呼ばれる溶岩洞窟に入り,周辺の溶岩樹形を見学.
富士樹空の森では,展示資料や映像を見学.今回,巡ったところが多く登場するので知識が整理され,また,文化や信仰など色々な視点からの解説もあり,視野が広がったのではないかと思います.
猿橋です.橋自体も立派なもので,地学とは関係ないものの感心しました.
橋のすぐ近くにある猿橋溶岩流の露頭を見学する生徒.バスでの移動時間から溶岩流の流下距離が長いことが感じられたと思います.
上部にあるのが猿橋溶岩流で富士山から流れてきたものです.柱状節理も発達しています.下部は桂川の河川堆積物でレキ層になっています.
帰りの中央道・談合坂SAで購入した富士山メロンパン.宝永の噴火口も開けてみました.中には,カスタードクリーム質マグマが入っていました.