1学期 医学部小論文・面接講座 特別企画 報告

2013.07.16

1学期の講習全8回の最終回となる6月29日(土)に、校外からスペシャル・ゲストとして、看護師の瀬野佳代氏(三恵病院看護副部長)をお招きし、「チーム医療の中での本当の専門性とは—看護師から見た医師への期待—」と題してお話しいただきました。
瀬野さんはまず、看護師生活の中で、多くの優れた医師との出会いがあり、これまで看護師を続けてこられたのも、その中で自分が様々なことを学び、励まされてきた具体的な経験を話されました。それらを踏まえた上で、今日は、精神看護の現場の中で考えてきた点に限定してお話しさせていただくつもりですと、口火を切りました。
その要旨を、ポイントを絞って、以下簡単にまとめます。
                                              
医師は、患者との関係はもとより、医療従事者の中でもその地位は最も高く、たとえば看護師が医師に何か言う場合でも「「上申する」と言う表現を使っていた時代もあった。それは反面、医師がすべての問題を抱え込み、責任を取る「孤独な存在」でもあったのだろう。しかし、現在では<患者の困りごと>を改善し、いかにその生活支援をしていくかという点を中心にして、医師、看護師、精神保健福祉士、薬剤師、作業療法士、そして患者本人、家族などがチームの構成メンバーとして関わっていくことが、多くの医療機関で意識されてきている。
それを前提に、チーム医療での医師の専門性としての役割は、主として4つあるのではないかと考えている。
まず第1に何と言っても、患者の病気に対するきちんとした診断と治療方針を決められる専門的な力量の必要性である。他のメンバーの様々な意見を聞く必要があるにしても、最終的な治療方針を決定するのは,医師なのである。


第2に、チーム医療では、チームに集う様々な職種のメンバーが、患者の抱える課題について、その専門性とアプローチの違いによって、それぞれの<見立て>を自由に述べ合うことが、とても重要だ。その際、医師がリーダーシップを発揮して、お互いに自由に意見を述べ合える雰囲気にできるかどうかが鍵になる。もしも、自由に意見を言い合える環境にはなく、チーム内の連携に支障をきたしている場合は、実は患者にも大きな影響を与えることになるだろう。こうしたことを意識している医師は、メンバーの意見をきちんと聞きたいという姿勢を示す意味でも、たとえば自分の見立てを最初に述べることはなく、必ず最後に言うなどの心配りをしている例が少なくない。
また、この医療チームは、単なる仲良しクラブではない。あくまでも患者さんの病気の改善と生活を支援するという目的で集まっている集団であり、それが原点だ。何か困難があった場合には、この原点にみんなが立ち返れるように、リードしていくことも大切だろう。
第3に、もちろんリーダーシップを取ると言っても、何から何まで医師が担うことは困難である。日常的な信頼関係がないと、中々できないことではあるが、多職種から成り立つチーム医療の強みを生かすとすれば、それぞれの役割によって任せることができるかどうかが大きなポイントになる。
では、その日常的な信頼関係をどうやって作っていくのかという点についてだが、自分のこれまでの経験からいうと、公の会議での発言で作られていくというよりは、日常的な会話で、医師からの医療メンバーへの声がけなどが、結構大きな役割を果たしているような気がする。
そして第4に付け加えるとすれば、医師が自分の「できること」と「できないこと」を、きちんと認識していることも必要ではないだろうか。こう考えるのは、自分は精神医療が専門で、患者の意志が重要な慢性疾患に近い現場に長くいるからかもしれないが、たとえば末期がんの治療方針で、生存率が変わらない場合には、患者に対する様々な治療方針のメニューに、「何もしない」という選択肢も加えられるかどうかという点も、考慮に値すると考えている。
                                                
その後、瀬野さんには、受講生から出された質問に対して、長時間にわたって、1つ1つ丁寧に答えていただきました。
以下は、受講後の生徒たちの感想の一部です。
A君:「チーム医療にとって必要なのは、医師が上手なリーダーシップの取り方と、チーム内での日常的なコミュニケーションの積み重ねだと瀬野さんは,話された。医師の役割は、パターナリズム的に物事を決定していくのではなく、チーム内で様々な意見を交換し合い、最終的に統括することなのだろう。今日の医療が、パターナリズムからインフォームド・コンセントへ移行しているように、その流れが、チーム医療の中でも起こっていることが実感できた。・・・」
B君:「医師は、チーム医療の中で大きな期待を背負っているが、それはスーパーマンだからではない。チーム医療の中で医師が信頼されるには、自分のできることと、できないことを、冷静に判断でき、自分の未熟な分野を、チームの中できちんと伝える能力があることだろう。もちろん自分の未熟さを露呈させることは、プライドが傷つくこともあるだろう。でもそうしたことを共有することが、信頼関係を築くために必要なことではないのか。・・・」
C君:「話をお聞きして、まず感じたのは、医療は医師1人で決して成り立たないということだった。病院では、私たちの目に見えないところで、医師だけではなく他の医療従事者が力を出し合っているという事実だった。・・・最後に瀬野さんは、まずは皆さん、熱意をもって医師になって下さい。それから自分なりの能力を見つけて下さいと激励してくださった。今日の話をモチベーションにして、自分なりの理想の医師を目指していきたい」
瀬野さんの話の内容を、大雑把にまとめましたが、机上の理論ではなく、精神看護の最前線に立ち続け、現場を支え続けている具体的な経験に基づくお話しは、医学部志望の受講生にとって、新たなモチベーションになったようです。お忙しい中、高校生に少しでも理解できるように、誠実に受け答えをしていただいた瀬野さんに心から感謝したいと思います。本当にありがとうございました。
                 (「医学部小論文・面接講座」担当教員)