理科 地学 2016年度夏季地学巡検旅行(秋田方面)
2016.08.17
8月7日(日)から8月10日(水)にかけて,地学科では,地学部員を中心とした秋田県での地学巡検旅行(3泊4日)を行いました.今回は,秋田県にある男鹿半島・大潟ジオパークでの巡検と,秋田大学国際資源学部での講義,鉱業博物館の見学が主な内容となりました.
男鹿半島では日本海拡大期の地層を実際に見て感じることができ,昔,日本海がどのような環境であったかを知る手立ても含めて学びました.この時期に日本海側を中心に活発化した海底火山活動は,多くの鉱物資源を生み出しました.それらが現代の生活を支える資源であり,その具体例である秋田県内の鉱物を中心に,その標本や採掘方法などを秋田大学・鉱業博物館で見学しました.そして,鉱物資源の乏しい我が国において,秋田大学・国際資源学部を訪れ,日本で唯一の国際資源学部の設立の経緯やその狙い,鉱物資源開発の実例など,鉱物資源を取り巻く現況や課題を講義していただきました.
まとめれば,今回の巡検は,鉱物資源をキーにして,それが地球科学的にどのようにして生み出されるのか,そしてその鉱物資源はどんなものがあるのか,今後,我々はどのように利用していけばよいのかについて,机上ではない,より深い学びができたと考えています.今回の巡検では,秋田大学の先生方を含め,宿舎やバスなどで多くの方々に親切に関わっていただき,有意義な学びとなりました.この場をお借りして御礼申し上げます.以下,詳細に報告いたします.
1日目(7日)
1日目は,主に費用節約のため,東北本線,奥羽本線を乗り継いで,一日かけて秋田駅まで約10時間の移動です.ハードで悠長な鈍行の旅ですが,地図を片手に知らない土地を車窓から眺め,山脈や盆地などの地形をゆっくり観察できるのは,新幹線ではできません.また,普段,学校では慌ただしく接する部員や教員も,ゆっくりと話すことができ,落ち着いた時間を過ごせるのも良いと思います.ひとまず,スムーズに乗り継ぐことができ,無事に秋田駅に到着しました.
奥羽本線の列車内.車窓から秋田の田園地帯と南北に走る山脈や盆地を眺めました.新幹線のスピードでは体感できない風景と距離感.秋田駅に着いたときに,とても遠くまでやってきたと感じます.
車窓の田園風景の黄昏時を,正面の鳥海山と三日月が彩ります.刻一刻と変わるドラスティックな夕暮れを落ち着いて眺めていられる時間は,都会の喧騒では味わえないところではないでしょうか.
2,3日目(8,9日)
2,3日目は,男鹿半島・大潟ジオパークです.この2日間は,秋田大学教育文化学部の川村教一先生と同じく教育文化学部の学生さんにガイドをお願いしました.見学のテーマは「日本海拡大の歴史をたどる」と「火山の名残を訪ねる」というものでしたが,台風の影響で少し波が高くなることが予想され,臨機応変に順番を崩し,天気の穏やかな1日目に海岸付近を集中的に行いました.各地点で地層を観察し,そこからどのようなことが読み取れるのかを,実際の地層を前に観察して学びました.そこから日本海拡大の過程や昔の火山活動が,どのようなものであったかを整理していきます.机上の資料で学ぶのではなく,実際のものを前にして,より現実味があり迫力のある巡検になりました.
早朝から秋田大学の小山先生に来ていただき,旅館内で,今日最後に見学予定の八橋油田についての予習をしていただきました.
秋田・男鹿半島へ来れば「なまはげ」です.観光案内所で記念撮影.
安田(あんでん)というところが最初の巡検地.太陽だけ除けば,最高の天気で波も穏やかな美しい海は,南国をほうふつとさせます.ですが…やっぱり暑かった?
海岸を歩きながら,生徒がつぶやきました.「これって風でできるやつ?」.そうです.風紋です.授業中に余談で話したのですが,本物を見ると納得でしょう.風向きも聞くと正解!単なる知識ではなく,ここまで深めれたら素晴らしい.それを聞くと他の生徒も「ほんとだ!」と.良い経験です.
この2日間,ガイドを引き受けてくださった秋田大学の川村先生より露頭を前にした授業です.バリエーションに富んだ地層が揃う安田で,生の地層を前に生徒に考えさせる贅沢な授業でした.
授業で教えたクロスラミナ(斜交葉理).ちゃんと上下判定できた生徒がおり安心しました.他の生徒もなるほどという感じでした.やはり本物は最高です.
この茶色の部分は火山灰層です.何と九州にある阿蘇山の火山灰です.偏西風に運ばれ,遠く秋田県でも10cm近く堆積した火山灰から,猛烈な火山噴火であったことが想像されます.
秋田名物ババヘラアイス.あちこちで農家のお姉さん(おばちゃん)が売っているものです.夏の暑さの中で涼むとともに,おばちゃんとの会話もまた良いものです.
昼ご飯は入道崎の食堂.少し高いので申し訳ないのですが,地のものを食べるのも勉強.食べ物や文化には,やはり地質や地形などの地学的要素が関係しているのです.
西黒沢海岸.荒波に削られた波食台にて,ホタテガイ,ウニ,海綿などの化石を探しました.
これは大型の有孔虫.私もはじめて観察しました.このような化石から地層の年代(示準化石)や当時の環境(示相化石)を推定することができます.
ついでに礫拾い.詳しく分類できなくても違う種類のものを集めるだけでも良い.海岸(上流の地質)が変われば,落ちている礫も変わるので面白い.石の成因がわかれば,なお面白い.この海岸は縞々の流紋岩が珍しいらしい.水にぬらすときれいです.
男鹿温泉郷にある鬼の隠れ道.これは生物岩ではなく,化学岩としてできた珍しい石灰岩.
鵜ノ崎の海岸で化石探し.国定公園のため採集はできないものの,強者は魚の骨などを見つけていました.
初日最後は油田の見学.日本国内では,なかなか見られないポンピングユニット.目の前で着々と原油がくみ上げられていくのは面白い光景です.記念写真.
宿舎でもとても良くしていただきました.2日目のカレーライス.しっかり食べてください.
3日目のスタートは寒風山.山頂から大潟村の干拓地を一望.実際の大きさに驚きです.
こちらは,寒風山の鬼隠れ里.ここは粘り気のある溶岩が噴き出し,柱のように固まった後,それが崩れたあとと考えられています.
秋田の鉱物資源を考える上でも重要な日本海拡大期のグリーンタフ.この時期の海底火山活動が鉱物鉱床にも関わっています.館山崎はその模式地で岩石の色が鮮やか.水中ではさらに鮮やか.これを見れば文句なしのグリーン(緑色)タフ(凝灰岩)です.
観光でも有名なゴジラ岩.塩瀬崎一帯は,火山礫凝灰岩に多数のマグマの貫入が観察できました.
加茂青砂海岸の1983年日本海中部地震の慰霊碑.当時,この海岸を訪れていた小学生たちが地震に遭った際,日本海側に地震津波という常識はまだ乏しく,避難できずに津波にのまれて13人が亡くなっています.現場で手を合わせ生徒と周りを見渡すと,写真のようにすぐ後ろには山の斜面が見え,知識さえあれば助かる可能性があっただけに地学教育の重要性を感じました
八望台から見た二ノ目潟.これはマールと呼ばれる火山地形です.お隣の一ノ目潟では,マントル由来の橄欖岩が捕獲岩として見られるそうです.
男鹿半島・大潟ジオパーク学習センターを見学.これまで見た岩石,化石,鉱物などが時代順や種類ごとに分けられておりとても良い復習になりました.1日目に安田でみた露頭のパノラマ写真もあり,そこでも川村先生から総まとめと,ちょっとした地層の解釈の宿題をいただきました.
4日目(10日)
最終日.秋田大学を訪れ,国際資源学部と鉱業博物館を見学しました.国際資源学部の宮本律子先生と小山健一先生から,国際資源学部と鉱山開発や資源のお話をいただいた後,鉱業博物館を見学しました.前日までに野外で観察したことが,先生方の講義により,どのように社会や日常生活とつながっているか,そして現況とこれから先はどのようになっていくのか,そして博物館では,その標本の素晴らしいコレクションと形成過程などを知ることができました.まだまだ見足りない生徒達に,申し訳ない気持ちになりながら,新幹線の時間が迫り終了でした.でも,面白さを知った彼らが,また秋田を訪れてくれることを期待したいと思いました.
宮本律子先生の講義「秋田大学国際資源学部と資源政策コースの紹介」
小山健一先生の講義「私たちの生活と海外現場での資源調達」.
鉱業博物館の見学.とても熱心に見学していました.連れて帰るのが心苦しかったです.
見学後,2日間,案内していただいた教育文化学部の学生さんがマールの形成実験を演示してくださいました.3日間も良くしていただいて,本当にありがとうございました.
昼ご飯は,秋田大学の学食でいただきました.よくやるのですが,大学の雰囲気が垣間見れて良いと思っています.小山先生もご好意でお付き合いいただきました.